5月20日の日曜日、晴天の東京から北陸新幹線に乗り、びゅーんと信州上田へ。
今回は、上田の海禅寺で開催される「聖天祭」がめあて。駅からお寺までは徒歩約25分。お祭りメインだとお城には行けないかなと思い、コミュニティバスで15分ほど車窓観光を決め込みました。ボンネットバス風の車体がかわいくハイカラな感じで、街道や城下町の風情の残る街並みによく似合っています。
バス停の目の前に、ポケットパーク。そこには、お地蔵さんがおわしました。説明板の記名はなんとこれから向かう海禅寺さん。すでにご縁を感じたりして。
このポケットパークの脇の道は旧北国街道の「柳町」。蔵造りの建物が並ぶ落ち着いた風情の街並みです。午前10時前、お店は開店前だし、この日は沿道のみなさん総出で水路の木蓋に防腐剤を塗布していました。今度は沿道のお店が開いている時間に行ってみたいですね。
この通りの突き当たりに鎮座するのが、上田大神宮。現在は国道に面していますが、おそらく参道は北国街道が柳町の北端で屈曲したところから始まっていたのではないでしょうか。
そして、上田大神宮の東側の小道の先に五色の旗がひらめいています。緑の山に抱かれるように、海禅寺がありました。
海禅寺は真言宗智山派、草創は平安期にまで遡り、上田の城下町を整えた真田昌幸が当地に移転させたそうです。最初の門は、石造りの冠木門(かぶらきもん)。春先はさぞ桜が見事だったのでしょう、参道の桜は、この日は初夏のような日差しを遮り、心地よい木陰のトンネルをつくっていました。
参道の先、10段ほどの石段の上にある山門もハレの様相。この日は、フラッグやチベットの布など、さまざまなカタチの青・黄・赤・白・黒の五つの色で、境内中が彩られていました。休憩スペースに、この五色について説明が掲示されていました。お釈迦さまのお体や教えを象徴的に表すもので、インドの五大思想や、中国の五行思想に由来、また、弘法大師空海が伝えた真言密教では五智如来に対応するのだそうです。ただカラフル演出しているのではなく、きちんと意味があるんですね。
到着してすぐ、10時からの聖天堂での法要に参列。お寺の行事としては、当日のメインです。副住職の飯島俊哲さんが導師を務められました。写っているお像は、十一面観音で、聖天さまではありません。聖天像は秘仏で、円筒形のお厨子に納められているそうで、この法要の際にはお導師様の正面におかれていました。
法要も半ばを過ぎると、般若心経がお唱えされ、参列者の焼香。焼香台に置かれた五鈷杵(ごこしょ)には五色の紐が結ばれ、観音様の右手とつながっています。この五鈷杵に触れることで、ご本尊様とのご縁が結ばれます。
20分ほどの法要のあとは、飯島副住職のご法話。聖天祭の縁起や、聖天さまご縁についてお話をしてくださいました。聖天堂が開扉されるのは、年に一度、この聖天祭の日だけ。境内には、聖天さまの紋の入ったお守りや風呂敷など、「縁起物」が頒布されていました。聖天さまのお守りのご利益はもちろん縁結び。「ご縁」には、男女だけでなく、家族、仕事、学校、社会など、さまざまなものが含まれます。隣にはさすが上田、真田六文銭の紋入りのお守りもありました。
11時20分からの仏さまツアーまで、少し時間があるので、「Mandara Market」を回遊。出店者数はなんと56!単一のお寺でのマルシェとしてはすごい数じゃないでしょうか。
聖天堂のすぐ近くでは、パンやお菓子、珈琲などのショップが並び、小さなお子さん連れのお父さん、お母さんたちが楽しそうにお買い物。
ふだんは駐車場でしょうか、参道東側の広いエリアには、カラフルなテントがずらりと並び、それぞれ飲食や雑貨などを販売。
参道の西側はキッチンカーも来ていましたが、クラフトや雑貨類が多いようです。こちらは砂利敷きで、参道の木々に沿うようにテントが配置されていて、さわやか、のんびりムードでした。
どのブースも列ができていたり、人だかりがあったりまししたが、ワークショップ系は特に人気で、クラフト体験を実施していたガールスカウトのテントも大盛況。
こうしたイベントで気になるのが、ごみ、です。
聖天祭では、特設のゴミ袋やゴミ箱などは用意されておらず、下の写真のような掲示がありました。なるほど、出店者の協力と、参加者のみなさんの配慮!56者もの出店があって、ゴミ箱等を設置せず、みなさんの善意によってゴミ処理が成立するというのはすごいことだと思います。また、「ごみはお持ち帰りください」を見出しにせず、「護美の行方について」という表現を使っています。
さて、そろそろ仏さまツアーの開始時間、本堂前へ集合です。仏さまツアーでは、本堂、聖天堂、不動堂の3堂をめぐり、それぞれに祀られている仏さまのお話を通して、海禅寺のことや仏教のことを学びます。途中離脱、途中参加は自由。
まずは本堂から。本堂前では、海禅寺の成り立ちからお話が始まり、ご本尊大日如来のこと、山額の下についている「法輪」のこと、神さまと仏さまとの関係などについて解説。「“鏡”から“我”を取ると、何になる?」と問いかけるなど、ガールスカウトの小学生たちにもわかりやすいお話ぶりです。
続いては、本堂の向かって左にある不動堂です。不動堂の前にある石碑に彫られた「御嶽山座王大権現/八海山大頭等羅神王/三笠山刀利天宮」について解説。山国信州上田ならではの信仰です。
不動堂の中は、直接日差しが届かず、ひんやりとした空気。不動明王がなぜ怒り=憤怒の形相なのか、蓮の花とお不動さんの関係、お護摩の語源や意味、供えられた紙束などについての解説でした。同じくこの場で聖天堂のご説明もありました。最後に、飯島副住職が太鼓を叩き、参加者全員で不動明王のご真言をお唱えして、ツアーは終了です。不動堂では約15分ほど正座をしました。ほどよく痺れがきたところで崩しましたが、ガールスカウトさんたちはまったく動じず。飯島副住職も感心しきりでした。
不動堂を出るとすぐに、「宇宙との交信板(飯島副住職談)」があります。海禅寺では保育園を運営していて、園児たちがそれぞれの願いを思い思いに記すのだそうです。1枚、まじで宇宙語としか思えない絵馬が強烈でした…。
保育園があるということも関係しているのか、または第七回目ともなると上田に定着したからなのか、聖天祭にはたくさんの子どもたちが来ていました。仏さまツアーには就学前の小さな子もお母さんやおじいちゃんとともに参加していて、騒いだりすることなく、説明をする飯島副住職のほうをじっと見ていました。お堂の前で子どもたちが手を合わせ、祈る姿も見られました。仏さまが何であるか、お寺とはどういう場所であるかを本質的に感じているのでしょうか。熱心に祈る姿を見て、ほほえましく、また、ありがたく感じました。
午後は本堂前で奉納ライブ。チベット、インド、ケルトと、仏さまや神さまと縁の深い地域の音楽です。
最後は、3つのグループのスペシャルセッション。「コードはDで」それだけでなんとなく演奏が始まり、ゆるやかに高揚していきました。写真の真ん中にある青っぽい光は、しゃぼん玉。セッションの最中に少年が本堂の前に駆けてゆき、カラフルな棒を振るったのです。私がシャッターを切ったときにはほとんど消えていましたが、不思議な光が写りこみました。
先に、子どもさんが多く来場していたことを記しましたが、もうひとつ、このお祭りで注目すべきは運営です。主催である海禅寺副住職の飯島俊哲さんに少しだけお話を伺うことができましたが、お祭りの目的は、お寺や地域が元気になることで、檀家さんたちが喜んでスタッフとして参加してくれているのだそうです。朝、お寺に到着して目に付いたのが、駐車場の誘導をしている年配の方々。また、まんだらまーけっとの会場内でも、下の写真のような聖天さまのマークのついたベストを着た老若男女を見かけました。ライブ終了後、飯島さんが多くの方々への感謝を述べられていましたが、最後に仰ったのが、ボランティアスタッフに労いの言葉をかけていただきたい、ということでした。イベンターも入らず、テキヤさんなども居らず、すべて自分たちだけで運営し、しかも来場者がほぼみんな満足して帰っていく、こんな素晴らしいお寺イベントがあったなんて!
最後に、花畑の脇にあるトイレを使わせていただきました。イベント終了後です。この日一日で何人もの方がトイレを利用したはずです。途中、スタッフの方がペーパーを補充したり、チェックしたりしたのでしょうが、それにしても、乱れなどなく、驚きの清潔さでした。
聖天祭の爽やかな気分に包まれ、周辺のほかのお寺へもと思い、駅に向かいつつ、いくつかお詣りしました。
まずは、海禅寺の少し東にある曹洞宗大輪寺。こちらには、真田昌幸公夫人の寒松院が開基で、墓所もあります。
続いて、こちらも曹洞宗金昌寺。隣接地が空地となっているので、アプローチから全景が捉えられました。境内には太子堂がありましたが、太子像はこの地域唯一なのだとか。
金昌寺から西へ続く路地をたどると、大屋根が印象的な浄土真宗本願寺派の浄楽寺がありました。
鐘楼の脇には、興味深い掲示が。「不殺生戒〔いのち〕を大切に/お寺の中では、生き物を捕らえることはできません/ポケモンも捕獲せずに、そっとしておいてください。/浄楽寺」
そろそろ新幹線の時間、駅に向かわねばと歩いていたら、住宅に埋もれるように小さなお堂がありました。大輪寺持ちの房山毘沙門堂です。正面に掲げられた手書きの説明板によると、江戸の頃に上田城の鬼門に毘沙門天を安置、その後廃寺や廃堂、再建等紆余曲折あり、昭和9年からこの地にあるようです。
今回は日帰り、海禅寺聖天祭堪能の小旅行。バスから見た上田城跡も足を踏み入れられなかったし、旧北国街道に点在する史跡や、町の東側に点在する寺院群も気になります。あらためて信州上田てらまちさんぽに伺いたいですね。